女子高を選んだ本当の理由|人前でトイレへ行くのが恥ずかしかった私の高校進学【実体験】

あの日、廊下の角で聞いた笑い声は、思っていた以上に長く残った。

最初はただの不快感だった。
少し嫌な気分になって、それで終わるはずだった。

でも違った。

時間が経つほどに、その感覚はじわじわと広がっていく。

教室で、廊下で、校庭で。
男子の笑い声が聞こえるたびに、ほんの一瞬だけ意識してしまう。

(もしかして、また何か話してるんじゃないか)

そんな考えが頭をよぎる。

もちろん、実際には関係ないことばかりだとわかっている。
自分のことなんて、誰も気にしていない。

それでも――

“見られているかもしれない”という感覚だけが、消えなかった。

委員長のあの出来事も、頭から離れない。

途中でバスを止めて、走ってトイレに向かっていった姿。
そしてそれが、後日笑い話として語られていた現実。

あの二つが重なって、ひとつの考えになっていく。

人前でトイレに行くことは、見られるもの。
そして、場合によっては話題にされるもの。

そう思うようになってから、私はさらに強く意識するようになった。

そしてもうひとつ。

はっきりとは言えないけれど、確実に変わったことがある。

男子に対する距離感。

怖いわけじゃない。
嫌いなわけでもない。

でも――

あのとき笑っていたのが、男子だったという事実だけが、
心のどこかに残り続けていた。

気づけば、男子と話すときも少し距離を取るようになっていた。

必要な会話はする。
笑顔も作る。

でも、どこか一歩引いたまま。

近づきすぎないように。
踏み込まれないように。

それが、当たり前になっていった。

進路を考え始めたのは、中学三年の夏だった。

多くの人にとって、それは人生の岐路になる。
将来を見据えて、真剣に悩み、選択するもの。

周りの友達も、そうだった。

「将来この仕事に就きたいから」
「大学進学に強いから」
「部活が有名だから」

それぞれに理由があって、それぞれに悩んでいる。

でも――

私の理由は、少し違っていた。

机の上に並べたパンフレットを見ながら、私は考える。

進学校、部活に力を入れている学校、おしゃれな私立校
そして、家から通える女子高。

どれも悪くない。

でも、ひとつだけはっきりしていることがあった。

私は、トイレに行くところを見られたくない。

そして。

できるだけ、男子のいない環境にいたい。

委員長の出来事と、その後の笑い話。
それが、自分の中に残したものは小さくなかった。

最後に手に取った女子高のパンフレット。

そこに載っている校舎や制服よりも、
私の目に入っていたのは、もっと単純なことだった。

(ここなら、気にしなくていい)

誰に見られるかを。
どう思われるかを。

少なくとも、今よりは。

夕食のあと、リビングでその話を切り出した。

「高校、ここにしようと思う」

母はパンフレットを手に取り、軽く目を通す。

「家からも近いし、いいんじゃない?」

あっさりとした返事。

父も横で頷く。

「無理なく通えるのが一番だな」

理由を深く聞かれることはなかった。

将来のことも、進学実績も。
特別なこだわりは求められなかった。

「じゃあ、ここで決まりだね」

その一言で、進路は決まった。

多くの人にとっては、大きな選択。

私にとってはトイレに行く姿を男性に見られたくないというだけの選択でした。

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