それが、いつからだったのか。
はっきりと覚えているわけではない。
でも、ひとつだけ――心に強く残っている出来事がある。
まだ小学校を卒業間近の頃。
家族で出かけた日のことだ。
父の運転する車の後部座席に、私は座っていた。
隣には、五つ年下の妹。
母は助手席で、目的地までの道を確認している。
行き先は、大きなショッピングセンター。
休日らしく、車内は穏やかな空気に包まれていた。
その空気が崩れたのは、到着直前だった。
「ねえ、お母さん……トイレ行きたい」
妹が、少し不安そうな声で言った。
「もうすぐ着くから、ちょっとだけ我慢してね」
母は落ち着いた声で答える。
でも――それでは、間に合わなかった。
「やだ、無理……! もれそう!」
突然、妹が声を上げた。
小さな体を揺らしながら、必死に前を押さえている。
座席の上で足をばたつかせ、顔を歪めている。
「もうダメ!ほんとに出ちゃう!」
その声は、車の中に響いた。
私は隣で、その様子を見ていた。
どうしていいかわからず、ただ黙って。
車は駐車場に入り、父親が先におりてトイレ行ってきなといってくれる
慌てて車を降りようとする妹、私と母は心配して後を追う。
建物に入らないとトイレはないみたいで、母と一緒に案内図を見て必死でトイレを探す。
その間も妹は限界が近いのか前押さえをしながら、漏れちゃうよと大きな声で騒ぐ。
そして、トイレの位置が見つかり妹と一緒にトイレに向かう。
妹はなんとかトイレに間に合ったものの、扉を閉める余裕がなく外から母が押さえていた
その時母が、
「まったく……」
少し呆れたような、ため息混じりの声。
そして、こう続けた。
「女の子なんだから、人前で“トイレ行きたい”なんて言わないの。
ましてや、お股を押さえるなんか恥ずかしいでしょ」
その言葉は、強くもなく、優しくもなく。
ただ、当たり前のことのように言われた一言だった。
けれど――
なぜか、そのときの私は強く思った。
ああ、そうなんだ、と。
トイレに行きたいと言うことは、恥ずかしいことなんだ。
人に知られるものじゃないんだ。
誰もいないところでトイレにいけば、恥ずかしくない。
幼い私は、そうやって思うようになった。
それから少しずつ、私は変わっていった。
学校でも。外出先でも。
どれだけ時間が経っても、口に出さない。
トイレに行く姿も、なるべく見られないようにする。
最初は、ただの意識だった。
でもそれはいつしか、当たり前になり、やがて習慣になり
そして今では、
私の普通の生活になっている。
朝、家で済ませる。
外では行かない。
夜、帰ってから済ませる。
それだけのこと。
ただ、それだけのはずなのに、ほんの少し予定が狂うだけで、
狂おしいほどの尿意に襲われる。
そんな生活を、私は今日も続けている。

コメント