新入社員のトイレ事情⑨ 朝帰りと少し縮まった距離

「見えちゃうって言っても、同性同士なんだからそんな気にするものじゃないと思うけどな」

私はスープをよそいながら、軽い感じでそう返した。

それに、と少し迷ってから続ける。

「昨日、着替えさせる時に見ちゃってるし」

その瞬間、彼女の動きがぴたりと止まる。

「……っ」

耳まで一気に赤くなった。

「そ、そういう問題じゃないです……!」

慌てたように視線を逸らしながら、小さく抗議してくる。

「こんな姿、人に見られたことないし……」

「温泉とかでも、タオルで軽く隠したりしますし……」

そこまで言ってから、さらに声を小さくする。

「まじまじ見られるの、やっぱり恥ずかしいです……」

その反応が、なんだか年相応で少し可愛かった。

昨日の無防備な様子とのギャップが大きすぎる。

私は笑いをこらえながら、「ごめんごめん」と返した。

その後、二人で朝ごはんを食べ始める。

温かいスープと軽いパンだけの簡単なもの。

でも、不思議と空気は居心地がよかった。

昨日、一晩介抱したからなのか。

それともお酒の勢いの延長なのか。

彼女は普段よりかなり素直に、色んな話をしてくれた。

親が結構厳しかったこと。

小学校の頃は習い事ばかりで、放課後に友達と遊ぶことがあまりなかったこと。

中学校に入ってからも塾や家族で出かけることが多くて、交友関係は広くなかったこと。

「高校も女子高だったので、そこからほとんど男性と接点なくて……」

そう言って苦笑する。

「大学も家から通いだったので、門限とか結構厳しくて」

「男性と付き合う感じにはならなかったですね」

私は相槌を打ちながら、その話を静かに聞いていた。

そして話題は、自然と“トイレ”の話になっていく。

「女友達と出かける時って、誰かが“トイレ行こ”って言うと一緒に行くこと多いじゃないですか」

「でも、自分から言い出すのは恥ずかしくて……」

彼女はスプーンを持ったまま、少し困ったように笑う。

「だから、誰かが行くまで待っちゃうんです」

「……でも先輩、全然トイレ行かないから」

そこで、ちらっと私を見る。

「私も全然行けなくて、結構我慢しちゃうんですよね」

私は思わず吹き出しそうになる。

「私のせい?」

「いや、なんか……行きづらくなるというか……」

彼女は恥ずかしそうに頬をかきながら続けた。

「何回か、本当にギリギリで駆け込んだこともありますし……」

そこまで言ってから、小さく笑う。

「ちょっと、ちびったこともあります」

さらっと言ったあと、自分で恥ずかしくなったのか「うわ、何言ってるんだろ私……」と顔を覆う。

私はそんな彼女を見ながら、なんだか妙に安心していた。

会社では見えない部分。

真面目でちゃんとしてるように見える彼女にも、こういう不器用で、少し抜けてるところがある。

昨日から今日にかけて、今まで知らなかった彼女の姿をたくさん知ってしまった気がした。

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