「見えちゃうって言っても、同性同士なんだからそんな気にするものじゃないと思うけどな」
私はスープをよそいながら、軽い感じでそう返した。
それに、と少し迷ってから続ける。
「昨日、着替えさせる時に見ちゃってるし」
その瞬間、彼女の動きがぴたりと止まる。
「……っ」
耳まで一気に赤くなった。
「そ、そういう問題じゃないです……!」
慌てたように視線を逸らしながら、小さく抗議してくる。
「こんな姿、人に見られたことないし……」
「温泉とかでも、タオルで軽く隠したりしますし……」
そこまで言ってから、さらに声を小さくする。
「まじまじ見られるの、やっぱり恥ずかしいです……」
その反応が、なんだか年相応で少し可愛かった。
昨日の無防備な様子とのギャップが大きすぎる。
私は笑いをこらえながら、「ごめんごめん」と返した。
その後、二人で朝ごはんを食べ始める。
温かいスープと軽いパンだけの簡単なもの。
でも、不思議と空気は居心地がよかった。
昨日、一晩介抱したからなのか。
それともお酒の勢いの延長なのか。
彼女は普段よりかなり素直に、色んな話をしてくれた。
親が結構厳しかったこと。
小学校の頃は習い事ばかりで、放課後に友達と遊ぶことがあまりなかったこと。
中学校に入ってからも塾や家族で出かけることが多くて、交友関係は広くなかったこと。
「高校も女子高だったので、そこからほとんど男性と接点なくて……」
そう言って苦笑する。
「大学も家から通いだったので、門限とか結構厳しくて」
「男性と付き合う感じにはならなかったですね」
私は相槌を打ちながら、その話を静かに聞いていた。
そして話題は、自然と“トイレ”の話になっていく。
「女友達と出かける時って、誰かが“トイレ行こ”って言うと一緒に行くこと多いじゃないですか」
「でも、自分から言い出すのは恥ずかしくて……」
彼女はスプーンを持ったまま、少し困ったように笑う。
「だから、誰かが行くまで待っちゃうんです」
「……でも先輩、全然トイレ行かないから」
そこで、ちらっと私を見る。
「私も全然行けなくて、結構我慢しちゃうんですよね」
私は思わず吹き出しそうになる。
「私のせい?」
「いや、なんか……行きづらくなるというか……」
彼女は恥ずかしそうに頬をかきながら続けた。
「何回か、本当にギリギリで駆け込んだこともありますし……」
そこまで言ってから、小さく笑う。
「ちょっと、ちびったこともあります」
さらっと言ったあと、自分で恥ずかしくなったのか「うわ、何言ってるんだろ私……」と顔を覆う。
私はそんな彼女を見ながら、なんだか妙に安心していた。
会社では見えない部分。
真面目でちゃんとしてるように見える彼女にも、こういう不器用で、少し抜けてるところがある。
昨日から今日にかけて、今まで知らなかった彼女の姿をたくさん知ってしまった気がした。

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