翌朝は、私の方が先に目を覚ました。
カーテンの隙間から入る朝日が、ぼんやり部屋を照らしている。
ソファーの上で小さく伸びをしてから、私は静かに立ち上がった。
ベッドの方を見る。
彼女はまだぐっすり眠っていた。
昨日かなり飲んでいたし、すぐには起きられないんだろう。
その姿を見て、私は少しだけ安心する。
――彼女に気づかれないうちにトイレへ行ける。
正直、それはかなりありがたかった。
昨日あんなことがあったとはいえ、やっぱり人にトイレへ行くところを見られるのは恥ずかしい。
ましてや家のトイレなんて、完全に自分だけの空間だと思っているから余計にそう感じる。
私は彼女を起こさないよう、できるだけ静かに部屋の扉をあけトイレに向かった。
朝一番の感覚は、思っていたより強かった。
昨日はそのまま寝落ちしてしまったし、夜もかなり慌ただしかった。
ようやく落ち着けた安心感もあって、私は深く息を吐く。
静かな朝。
誰にも邪魔されない、自分の家のトイレ。
いつもなら誰の目も気にしなくていいけど今日は彼女がいるので長居はできない。
用を済ませたあと、私は軽く顔を洗ってからキッチンへ向かった。
朝ごはんでも用意しようかな。
そう思って冷蔵庫を開けたところで、後ろから小さな物音がする。
振り返ると、彼女がふらふらした足取りでリビングへ出てきていた。
まだ完全には起きていない感じで、寝ぼけた顔をしている。
でも数秒後。
見慣れない部屋と、そこにいる私を見て、一気に目が覚めたらしかった。
「……え?」
「……えっ!?」
顔がみるみる赤くなる。
私は苦笑しながら、昨日のことを説明した。
飲みすぎて、一人で帰すのは危なかったこと。
介抱しながら家へ連れてきたこと。
服がしわになるといけないから、私の部屋着に着替えさせたこと。
話を聞くたびに、彼女はどんどん申し訳なさそうな顔になっていく。
「ほんとにすみません……!」
「ご迷惑おかけして……!」
何度も頭を下げる彼女に、私は笑って首を振った。
「気にしてないから大丈夫」
そう返すと、彼女は少しだけ安心した顔をする。
でも、その直後だった。
彼女の様子が少し変わる。
そわそわし始めた。
落ち着かないみたいに足を動かして、視線も少し泳いでいる。
私はその変化にすぐ気づいた。
たぶん、かなり我慢してる。
昨日寝る前に行ったきりだし、お酒も水もかなり飲んでいた。
アルコールの後って、尿意も強くなりやすい。
彼女は少し迷ったあと、恥ずかしそうに口を開いた。
「……すみません」
「お手洗い、お借りしてもいいですか?」
その言い方が、会社と同じで少し可笑しくなる。
私はできるだけ普通に頷いた。
「もちろん。そこ使って」
彼女は「ありがとうございます……!」と小さく頭を下げて、かなり早足でトイレへ向かっていった。
私はその後ろ姿を見送りながら、なぜか少しだけ気になってしまう。
そして気づけば、私はトイレの前まで来ていた。
もちろん悪いことだとは思う。
でも、どうしても気になった。
ドアの向こうから、小さな物音が聞こえる。
とん、とん、と軽い足踏みみたいな音。
慌てて動いている気配。
それから少しして、ほっとしたような吐息混じりの声。
「はぁ……間に合ったぁ……」
私はその声を聞いた瞬間、なんとも言えない気持ちになって、思わずその場で小さく息を止めた。

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